フローレンス法と外科的手術はどう違うのか?
フローレンス法は、腰部脊柱管狭窄症、軽度すべり症に対する先進的な治療法です。
従来は、脊柱管狭窄症やすべり症に対して外科的手術が行われていますが、今回はフローレンス法と外科的手術の違いに関して解説します。
フローレンス法とは
フローレンス法は、局所麻酔と鎮静下で経皮的にスペーサーを挿入して、狭くなった脊柱管を広げる、低侵襲施術です。
スペーサーを入れることで脊柱の回旋や屈曲を維持して、椎体の安定化を図ります。狭くなっていた脊柱管を広げて、椎間板の突出を抑えて黄色靭帯肥厚を軽減でき、痛み・しびれなどの症状が解消されます。

フローレンス法の適応
フローレンス法は、脊柱管狭窄症、軽度な変性すべり症、椎間関節症に適応されます。
フローレンス法の効果
フローレンス法でスペーサーを挿入することにより、狭くなっていた脊柱管が拡大され、神経の圧迫が消失して、腰痛や間欠性跛行などの症状の改善が期待できます。
1~2㎝の切開で経皮的に行われるため、背骨の安定を図る靭帯が損傷せず温存します。それ故に、スペーサーがずれることなく、背骨の不安定性を軽減できます。
スペーサーの挿入により、狭くなっていた脊柱管が拡大されるだけでなく、椎間孔の平均面積も増加します。*1
*1 参照元:Luca Jacopo Pavan, et al. Clinical and radiological outcomes following insertion of a novel removable percutaneous interspinous process spacer: an initial experience. Spinal Neuroradiology. 64(9), 2022.
フローレンス法のリスク
脊柱管狭窄症の原因によっては適応外となるケースがあります。骨粗鬆症の場合(特に重度な場合)は骨折のリスクがあるため、適応外となります。
フローレンス法の再発率
フローレンス法はリスクの少ない局所麻酔で行われます。
皮膚の切開が1~2㎝程度で済むため、靭帯や筋肉などの損傷がありません。
そのため、再発率も極めて低いとされています。世界中の医療施設でフローレンス法の治療に関する研究結果では、治療後の合併症の報告がありません。*2
*2 参照元:Luca Jacopo Pavan, et al. Clinical and radiological outcomes following insertion of a novel removable percutaneous interspinous process spacer: an initial experience. Spinal Neuroradiology. 64(9), 2022. Stefano Marcia, et al. Feasibility, safety, and efficacy of a new percutaneous interspinous device: a retrospective multicenter study. Neuroradiology. 2024.
外科的手術:椎弓切除術と脊椎固定術
脊柱管狭窄症やすべり症に対して行われる手術は、椎弓切除術と脊椎固定術が最も一般的です。
椎弓切除術は全身麻酔にて行われます。背部の皮膚を4㎝程切開し、椎弓の一部や肥厚した黄色靭帯などを切除して、神経の圧迫をとり、脊柱管を広げます。
脊椎固定術は全身麻酔にて、背部の皮膚を3~4㎝程度切開します。変性した椎間板や肥厚した黄色靭帯などを取り除いてから、ケージを入れて、椎体をスクリューとロッドで固定します。腰椎椎弓切除術の後に行われることもあります。

外科的手術の適応
椎弓切除術と脊椎固定術は様々な脊椎疾患(腰部・頚部とも)に適応されます。その主な疾患は椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、すべり症・分離症、脊椎不安定症、脊椎側弯症などです。
外科的手術の効果
椎弓切除術で神経を圧迫している靭帯などを切除して、脊柱管を広げます。神経圧迫がとれることで、痛みなどの症状が軽減されます。
脊椎固定術では、脊椎の安定化をはかります。ただし、背骨が金属のプレート等で固定されるため、術後は腰部の動きが制限されます。
外科的手術のリスク
椎弓切除術や脊椎固定術は次のようなリスクを伴います。
・手術部位の感染
・脊髄や神経の損傷による麻痺
・術後出血
・稀ではあるが、手術による呼吸困難が起こる可能性がある
・体に入る金属のスクリュー・ロッド等の折損
・隣接の部位に負担が増加し、脊柱管狭窄症が発生してしまう
外科的手術の再発率
外科的手術で骨を削ったり靭帯を切除したりするため、靭帯や筋肉などの損傷や骨の損傷のリスクが高く、手術後に症状再発の可能性が高いです。その場合は高い割合(10%~23%)で再手術が必要とされます。*3
また、併存疾患があると、術後の合併症の発生率が高くなり、回復期間は長くなります。特に、高齢の患者は併存疾患の発生率が高く、60~73.9%と言われています。*4
*3 参照元:Atlas SJ, et al. Long-term outcomes of surgical and nonsurgical management of lumbar spine stenosis: 8 to 10 year results from the maine lumbar spine study. Spine, 2005, 30(8). Kim CH, et al. Reoperation rate after surgery for lumbar spinal stenosis without spondylolisthesis: a nationwide cohort study. Spine Journal, 2013, vol.13-10.
*4 参照元:Khalepa R.V., Klimov V.S. Lumbar spinal stenosis in elderly and senile patients: problem state and features of surgical treatment. Russian journal of neurosurgery. 2017;(1).
まとめ
フローレンス法 | 椎弓切除術 脊椎固定術 | |
---|---|---|
麻酔 | 局所麻酔+静脈麻酔 | 全身麻酔 |
切開 | 1~2㎝ | 3~4㎝ |
骨・靭帯などへの影響 | なし | あり |
治療時間 | 約30分/1箇所 | 1~1時間半 |
入院期間 | 日帰り | 数週間 |
術後の動きの制限 | なし | あり |
再発率 | 極めて低い | 10%~23% |